Vici症候群患者会に寄せて
私が初めてVici症候群の患者さんに接したのは、北海道大学小児科でこの会の会長を務められている運上さんの長女の主治医になった時です。
当時は診断をつけることはできませんでした。
その後、2011年に名古屋市立大学に異動し、主治医は北海道大学小児科の白石秀明先生に引き継ぎました。
白石先生からの電話で、運上さんの次女に同じ病気が見つかったと聞いた時のショックは忘れることができません。
自分たちが診断をつけることができなかったことを悔やみました。
その頃になると、今では未診断疾患イニシアチブ(IRUD)などで普及したエクソーム解析(全ての遺伝子の配列を決定する技術)が利用できるようになり、EPG5遺伝子の変異を同定することができました。
EPG5がオートファジー関連遺伝子であることが分かっていたので、運上さんのご協力を得て、皮膚線維芽細胞を樹立し、国内の複数の施設と共同研究を行い、オートファジーに異常があることを解明することができました。
やや専門的ですが、EPG5がオートファジーにおいてオートファゴソームとリソソームの結合に必要であることを世界で初めて解明し、2017年に論文として発表しました(Hori, Sci Rep 2017)。
現在は治療法が存在しないVici症候群ですが、将来的に治療法が開発されるためには病気のメカニズムがわからなければなりません。
少しではありますが、そのための貢献できたと考えています。
昨年から厚生労働科学研究班に加えていただき、Vici症候群のホームページを作成いたしました(https://www.jichi.ac.jp/autophagy/)。
また、日本での診断基準の作成を行い、これを用いて2023年4月からVici症候群の全国疫学調査を行っています。
このような調査を行なっている目的の一つは、Vici症候群を小児慢性疾患、そして指定難病に認定していただくことです。そうなると、EPG5遺伝子解析を医療保険で実施することが可能になります。
Vici症候群のような希少疾患は沢山あるので、認定は必ずしも簡単ではありません。
そのためには、患者会との協力が大きな力になります。是非、協力して、認定を勝ち取りたいと願っています。
希少疾患の研究は、私たち研究者と患者・家族との共同作業です。
ヒトの疾患の研究は患者・家族との協働がなければ成し遂げることはできません。
これからも力を合わせて、治療法の開発に繋がるような研究を推進できればと願っています。